『ジャカランダの花』 間鍋三和子
未来会員、間鍋三和子さんの第六歌集。
不勉強で恥ずかしいが私は間鍋さんがどのような方か存じ上げなかった。
「右顧左眄するな-近藤芳美先生」というタイトルの一連があり、また引き揚げ、国民学校という言葉からも自分の親と同世代の方だろうと推察される。
それにしても、近藤芳美先生に直接教えを受けた方なのだなぁ。たとえば、
さりげなく委ねたまひし先生の旅の鞄を持ち従ひき
こういうのちょっと憧れます。さりげなく、なのがドキドキするじゃないですか(ミーハーですいません)。私の師匠はいつもリュックを背負っていかにも大阪人らしい早足でどんどん先に行っちゃうから、こういう機会はなさそうな気がする。
この歌集には太平洋戦争で戦地となった場所を訪ねて詠んだ一連がいくつもあって、シベリアから東南アジア各国とその島々へと続くのでお歳のわりにずいぶんアクティブな方だなと思ったら、後記に「歴史散歩友の会」の企画に参加されたと書いてあった。そういうツアーもあるのだなぁと感じ入る。戦争中の様子はご自分で調べたり、その旅の中で聞いたのだろうと推測するが、それにしてもよくこれだけ詠まれたなと思う。
その国や地域の現在を詠んだ歌、日々の歌が印象に残った。
ジャカランダの花ほたほたと散ればまたかなし国遠く死にし兵士ら
見のかぎり瑠璃色展ぶる海原を軍艦埋めし日をこそ思へ
この国の仮想敵国は知らざれど事あらば滑走路とならむ十車線道路
幾たびも本伏せ心立て直し北ボルネオの戦記読み継ぐ
体温に等しき外気に包まれて身の輪郭の緩び溶けゆく
書き泥む机にまろめる蜘蛛の死の擬態を指に弾きとばしぬ
咲き出でし石蕗にさす朝光の澄めるまなこに見尽くさむかな